前蹴りは空手の蹴り技の中で最も基本的な技です。半身に構え、前足を軸足とし、後ろ足を抱え込みながら腰を正面にしながら前へ蹴り込む技です。爪先で指すように蹴る技も存在しますが、現在は他の格闘技同様に中足での蹴りが主流です。この記事では伝統空手の前蹴り方法を解説していきます。
伝統空手の前蹴りの特徴
伝統空手の前蹴りは、相手に蹴りの挙動を察知されないためにいかに無駄がない動きで相手を制すかというところに主眼をおいているので、他の打撃格闘技と比べて技を繰り出す上での制約が非常に多いのが特徴です。
決められた体の使い方で技を行わなくてはならないため基本の練習が非常に重要になってきます。
特徴その1、一旦蹴るポジションを固定したらその場から蹴る
相手との距離、間合いを見定めたらそのポジションからなるべく重心を移動せずにダイレクトに蹴ります。軸足を移動させて蹴るポジションを再び変えるようなことは相手にこちらの動きを悟られる原因になります
特徴その2、頭の高さを変えない
蹴るときに極端に蹴る時の軸足が伸長して頭の高さが変わるようなことがあれば、前へ押し出されなければいけない体重やエネルギーが軸足が縦に伸長した時点で相殺されてしまいます。 また上半身の変化、特に頭の高さの変化は相手の反応を買いやすく、反撃をもうらう可能性があるので軸足は固定し頭の高さを変えないことを意識しなければなりません。
特徴その3、半身になって蹴らない
キックボクシングでは動きの中で軸足を回転させて半身の状態で押し込みながら前蹴りを蹴りますが、空手の前蹴りは全て体が正面を向いています。これにはいくつか理由があります。
まず伝統空手のセオリーに基づくと、軸足の踵を前に動かして半身になりながら前蹴りをすると蹴りを払われたときに体制を崩しやすく簡単に相手に自分の死角を晒してしまうという理由、蹴ったときにつま先の方向が横に向いていると蹴り足の力が分散してしまう、半身になると蹴りを押し込む形になるので相手に掴まれやすいという欠点をその理由としています。
特徴その4、押しが3割、引きが7割の力配分
押し込む形の蹴りは相手の筋力の反発力を呼び起こしてしまうため、なるべく蹴り足の引きを早く戻すようにします。相手の内臓に効果的にダメージを与えるには相手の筋力が反応しないレベルで押し込みを最小限に押し込み素早く引きます。
蹴り足の「押し」と「引き」の力の配分は3:7です。
前蹴りの蹴り方
前屈立ちでしっかりと立ち方を作る
前屈立ちは全ての攻撃技の最も基本的な立ち方で、前蹴りも同様に前屈立ちの姿勢は最も基本的な蹴りのスタートポジションになります。
前屈立ちは肩幅に広げた足を前後に開き、前足に7割の重心を置き、後ろ足のハムストリングはしっかり伸ばして腰を正面に向けて立ちます。前足の膝の角度は自分の目から前足の膝を見たときに前足のつま先が隠れる程度です。
足を抱え込む
蹴り足(後ろ足)をしっかり折りたたみ、膝を自分の胸まで引き上げます。この動作を「抱え込み」と言います。この時に軸足(前足)は固定したままです。軸足を伸ばしたりしてはいけません。
後ろ足の膝を抱え込む時の注意点はしっかりと太ももの表面が胸につく程度まで膝を引き上げるということです。抱え込む膝が自分の胸から遠かったり、抱え込み方が浅かったりすると攻撃の場所をコントロールできなかったり、相手に挙動がバレてしまったりしますので。
しっかりと蹴り足は胸の前で折りたたみ、太ももの表面が胸につくように練習してください。
腰を押し出しながら蹴り足を出す。
抱え込んだ足を後ろの腰、臀部を使って前へ押し出してください、この時少し体を倒します。
しっかりと足を抱え込み、かつ腰を使って前へ蹴りを押し出さないと、蹴りの軌道が地面から振り子状になり蹴り足が上ずって空振りしてしまいます。
蹴り足の抱え込み、腰の押し出しは前蹴りの中では最も重要なポイントです
蹴り足を後ろに戻す
相手の懐に辿り着いた蹴りは、蹴った時の全く同じコースを通って後ろに足を戻します。蹴り終わったら、同じく買い込みそこからハムストリングを伸ばしながら足を元の位置に戻します。
前蹴り時に意識すべきポイント
先に紹介した伝統空手の前蹴りの4つの特徴がそのまま前蹴りをける上でのポイントになります。繰り返しになりますが、前足の軸足の使い方や蹴り足の引と押しの力配分が重要なポイントになります
軸足は絶対に動かさない
軸足(前屈立ちにおける前足)のつま先は常に相手に対して真正面に向け、前屈立ちの姿勢から基本的に位置を変えてはなりません。一旦ポジションを決めたらその場から軸足を固定して一気にその場から蹴ってください。
腰を押し出すと同時に軸足の股関節を伸ばす
腰を押し出すと同時に軸足の股関節を前に押し出すように伸ばしてください。そうすることで臀部の力が加わりやすくなります。
蹴り足はまっすぐ伸ばす
蹴り足の引きと押しの配分が7:3とはいえ、相手の鳩尾を蹴り抜くイメージで蹴り足をまっすぐ伸ばしてください。「蹴る」というよりどちらかというと「刺す」というイメージに近いかもしれません。
蹴り足の引きと押しの配分が7:3
蹴り足の起こりは一気に加速しなければいけませんが、イメージとしては蹴りだすよりも「引き」のスピードをより速く行ってください。 しかし「引き」を意識するあまり腰の押し出しがおろそかになってはいけません。この塩梅が非常に難しいわけですが、何回も稽古をしてコツをつかんでください。
練習方法
まずは膝の抱え込みの練習から
蹴り出す前の段階である膝の抱え込みをしっかりと練習しましょう。蹴りを出さずに前屈立ちの姿勢から膝を折りたたんで太ももの表面を胸につけることができているか確認してください。
柔軟性に問題がある場合は自分ができる範囲でなるべく膝を高く抱え込む練習をしてください。
蹴り足の練習
その場蹴りは体を安定させるのが非常に難しいので、初心者は壁やサンドバックを蹴るなどして、軸足を安定させて前げりを練習してください。この時に一つ一つポイントを確認しながら自分の蹴りの軌道がまっすぐ相手に届いているかどうかを考えながら蹴りましょう。
蹴り足を早く引く練習
ある程度、安定的に定まったポジションから前蹴りを蹴ることができるようになったら、引き足を早く引く練習をしましょう。蹴り足の引きと押しの配分が7:3の塩梅は非常に難しいですが、前げりで相手の腹部を「刺す」というイメージを持つと蹴り足で押す時の加減と引く時の加減をうまくコントロールできるかもしれません。
最後にその場で前屈立ちで蹴ってみる
その場前屈立ちの前蹴りは非常に軸足に負担がかかるため姿勢のコントロールがとても難しいです。上の3つの方法でよく前蹴りを鍛錬して安定的に蹴れるようになった段階でその場前屈立ちの前蹴りの練習をしましょう。
蹴る対象がなくなり自力で安定して蹴ろうとするとどうしても軸足を安定させようと、軸足が伸びてしまい頭の高さが変わってしまうことがよくあるので、鏡を見ながら自分の形を一つ一つ確認しながら練習しましょう。
まとめ
空手の前蹴りは非常に制約が多いですし、できるようになるまで他の打撃系格闘技の蹴り技の習得期間と比べたらはるかに時間がかかります。
キックボクシングなどは動きの中で蹴りを出すように練習するので非常に体が覚えやすいですし、攻撃のタイミングも掴みやすいですが、伝統空手の前蹴りは非常に静的で攻撃に至るまでのプロセスに様々なルールがあって難解です。
ただ伝統派の技術の場合、前蹴りは蹴りの基本としながらも、回し蹴り横蹴りなどその他の蹴り技は膝の抱え込みまでのプロセスや軸足の運用方法は前蹴りと同じなので、どちらかといえば回し蹴りも横蹴りも蹴上げも前蹴りの変化技という認識です。
ですので、前蹴りの練習は他の蹴り技のバリエーションを増やす上でも重要な技なので必ず練習しなければならない技の一つです。
是非今回ご紹介したポイントを一つ一つ確認してご自分で練習してみてください!